期待膨らむ衛星測位「マルチGNSS」

ナビゲーション、地図情報において重要となるのが衛星測位だが、2013年、衛星測位は新しい時代に突入した。衛星測位システムというと、GPS (全地球測位シるアム)を思い浮かべるだろう。だが、じつはGPSは衛星測位の固有名詞であり、 一般名詞ではGNSS (全地球航法衛星シろアム)レ」という。

アメリカは軍事用として1960年代から衛星測位を研究開発し、80年代には基本システムを構築。そして1993年12月、当時のビル・クリントン大統領がGPSの民間利用を決定した。GPSを管理運用するアメリカ空軍が発表した衛星測位のカンフアレンス「IONG N S S +」(2013年/ 7 季ンー州ナィンュビル) によると、G P S 衛星の総数は35 基(同年9月時点)。内訳は打ち上げ時期の早い順に、G P S Ⅱ A が8 基、G P S Ⅱ R が‐ 2 基、G P S ⅡRIMが7基、そしてGPSⅡFが4基だ。このほかに軌道上には、テスト運用中が1基と予備用の4基がある。2014年中の3基を含めて今後8基のⅡFを打ち上げる計画だ。さらに2015年以降は、第三世代の「GPSⅢ」に移行することが決まつている。

こうしたアメリカのGPS独占状態に対して、世界各地域で自前のGNSS運営の動きが出ている。ロシアが2010年からグロナス、中国が2012年から北斗貧イドこの運用を開始し、EC (欧州委員〈こが2014年末からガリレオで実証試験を行う。GPSを含むこれら4つのGNSSは世界各地に地上局を備える。また、受信機としては、民間大手がすでにマルチGNSSに対応した製品を市場に導入している。

このほか、地域を限定したGNSSとしては、インドのG A G A N (ガガン)と日本のQ Z S S (準天頂衛星) がある。これらは「マルチGNSS」と呼ばれている。ではなぜ、マルチGNSS化がいま加速しているのか? 最大の理由は、軍需による情報競争だ。前出の「ION GNSS+」の現場を取材してみると、アメリカ国防総省本部や空軍の制服組の存在感がとても大きいことに驚かされる。またロシア、中国の関係者にGNSS関連の詳しい話を聞こうとしても、こちらが「プレス(報道)だ」と名乗ると途端に多くを語らなくなった。

日本の準天頂衛星の製造に関わる大手電機メーカーの関係者は、「準天頂衛星はGPSの補完が目的であり、衛星の設計思想もGPSにかなり近い。そのため、軍事に関わる事案も多く、設計の詳細を知る者はほんの数人。GPS関連事業部の機密保持のレベルは極めて高い」と漏らす。各国ともに「GNSSは国税を活用している手前、民間利用も認めざるを得ない」という立場だ。その民間で利用される分野について、ECの発表資料に詳しいデータがある。まず、2010.2020年までの、世界市場におけるGNSS民間利用の売上高を見てみると、自動車が54・0%ヽスマートフオンが43 ・7%で市場の大半を占める。残りは、農業1 ・0%、測量0 。6%、航空0 ・5%、そして船舶が0 。1%となつた。また、自動車とスマートフオンのGNSS利用を、車載型カーナビ、PND、そして「スマホでカーナビ」の3種類に分けた販売台数予測がある。それによると、PNDは横ばい、車載型カーナビは微増で2018年に頭打ち、そして「スマホでカーナビ」は順調に伸びる。

ところが、これを売上高で見ると、「スマホでカーナビ」は2018年頃に頭打ちになると予測している。これは、スマートフオンにおける量産効果でのコンスタントな価格低下を加味した結果だ。さて、マルチGNSS化によつて衛星測位の精度は上がる。衛星測位は、最低4基の衛星から信号を受けることで受信位置を得る。だが精度を上げるためには、より受信状況のよい、より多くの衛星が必要だ。さらに、アメリカ、ロシア、EC、中国、そして日本が運用しているSBAS (静止衛星型衛星航法補強システム)と呼ばれる種類の衛星から補強信号を得ることで、受信位置の精度はさらに上がる。

日本のGNSSによる測量機器大手のトプコンの技術者によると、「現在のスマホの衛星受信モジュールは価格が安く精度も低いので、位置精度は10メートルほど。カーナビでは5メートル。また、測量や建機向けで弊社でも販売しているRTK測位(地上2点での受信方法)では精度は1センチメートルを実現している」という。また、2013年のITS世界会議東京大会では、トヨタ系の電機メーカーのデンソーが「アクア」の自動運転の屋外デモンストレーシヨンを行つた。それによると、GPSに加えて、宇宙航空研究開発機構(JAxA)の協力を得て、実験運用中の準天頂衛星「みちびき」から補強信号Ll‐SAIF、またはLexを受信することで10センチメートルの精度を目指していると説明した。

日本の準天頂衛星は2010年代後半までに「みちびき」を含む4基体制となる。そのための予算は確保されている。さらに将来的には最大7基まで増やす計画だ。7基あれば1日を通じてGPSに頼らず日本独自の衛星測位が可能になるとも言われている。しかし、「現実的にはアメリカの軍需がからむ。日本の立場は微妙だ」(日本のGNSS政策の関係者)という。民間利用よりも国家安全保障に関わる領域が大きいのだ。準天頂衛星に関する施策を所管する内閣府の公開資料には「有事などの場合、GPSは利用できなくなる可能性がある」とのただし書きがある。他方、ロシア、中国、ECは独自GNSSを持つため、マルチGNSSの利便性を享受でき、自動車などの地上移動体に対する独自のテレマティクス戦略を進めることができる。とくにECは、前出のノキア「HERE」の活用を推進する構えだ。