自動運転の要「地図データ」をめぐる開発競争

自動運転技術の急速な進化により、地図データヘの関心が一気に高まつている。世界市場で現在、カーナビやスマホなどデジタル機器関連の地図データは事実上、3社によつて牛耳られている。l社は、1985年にシリコンバレーで創業した地図サービス企業ナブテツク社を200 8年に買収した、フインランドの情報通信大手のノキア。2社目は、1984年に創業したデジタル地図情報サービスメーカーのテレアトラス社を2008年に買収した、オランダのPND製造販売の大手トムトム。

同社はアツプル向けの地図情報アプリサービス「マップ」も開発している。ノキアとトムトムがともに地図データ関連会社を2008年に買収した理由は当然、iPhoneとアンドロイド端末への対応だ。そして3社目が、グーグルマップとグーグルアースを擁するグーグルである。3社のなかでも、ノキアが新しいビジネスモデルの開発に積極的で、すでに「ロケーシヨンクラウド」を打ち出した地図サービス「HERE」を提供している。ノキアはクラウドビジネスの競合として、ソーシヤルクラウドのフエイスブツクヽリテールクラウドのアマゾン、そしてサーチクラウドのグーグルを挙げている。

こうした分類をすると、グーグルとノキアは地図情報サービスで同じ土俵にいない。これについて「HERE」開発担当のノキア幹部は、「グーグルはあくまでも検索事業が本業。地図データ事業は検索を介して購買に結びつけるツールだ」との解釈を示した。では、ロケーシヨンクラウドとは具体的に何か?

それは、自動車の運動状況を把握した3Dマップ化だ。その基盤として、道路の勾配、コーナー曲率、コーナーのカント(高低差)、そして車線幅などの微妙な変化を詳細にデータ化する。これらのデータ収集にはグーグルカーと同じ米ベロダイン社の「ライダー」が用いられている。そのうえで、「HERE」を搭載する各車の移動方向と速度をGPSなどの衛星測位データと重ねる。

すると、たとえばあるコーナーを通行する車の進入速度、ブレーキを踏むポイント、コーナーリング中の速度変化、そしてコーナー出口での加速度を把握できる。これらの車両の走行状態を踏まえ、3Dマップに作り上げる。こうしたカーナビからの情報をクラウドで解析する手法は、ホンダが2003年に車載型カーナビ「インターナビ」で「フローテイングカーデータ」解析として世界初採用している。ホンダは現在、そのデータをグーグルアース上で表示する実験を東京などで行っている(詳しくは第2章)。この場合、データ解析を行うのはホンダ独自のサーバーになるが、ホンダは独自の地図データを持っていない。

対する「HERE」では、情報解析の主体は地図情報データ側であり、そこに「HERE」を搭載する各自動車メーカーの車両位置データが集まってくる仕組みだ。そして近い将来には、「HERE」はさらに一歩踏み込んだ領域に入る予定だ。それは、車両のCAN (コントローラー・エリア・ネットワーク)の情報を得て、エンジン、トランスミツシヨン、サスペンシヨンなど自動車の運動性能に関するデータを吸い上げるのだ。ドライバーを事前に登録していれば、各人の運転特性もわかる。ここにリアルタイムでの天候データ、路面の状況を入れ込む。

これで、各車の運動特性を網羅した3D マツプが完成する。そして、ノキアの狙いはこの先にある。それが、自動運転における操作指示だ。たとぇば、ドライバIAが毎日通勤しているルートの急カーブで、いつもより進入速度が速ければクラウドを通じて車両に減速指示を出す。ドライバIBが初めて訪れた街でレンタカーを乗っている場合、その街で収集された平均的な走行パターンから逸脱しそうになると、減速やステアリング操作補助を行うなど、ドライバー別にカスタマイズされた究極の自動運転が可能となる。走行する各車両から情報を得るのが、クラウドで情報処理を行う「プローブ」での情報管理の第一段階だ。

これをもとに、第二段階では各車両に対する的確な指示を出す操作指示が実現する。これはまさに、自動車版ビツクデータの活用である。こうした技術開発の過程で当然、標準化の議論が出てくる。前出の「HERE」開発者は、「自動運転を含めた外部からの運転指示に対する)自動車メーカー側の考え方も様々あり、我々のシステムを標準化するのは難しい」と、優等生的な回答をする。

だが、ノキアが3Dマップデータでの市場占有度を高め、いわゆるデファクトスタンダード化を狙っているのは間違いない。その布石が、2013年9月のフランクフルト・モーターショーで見られた。ダイムラーの「メルセデス」部門、イタリアの大手自動車部品メーカー「マニエツティ・マレリ」、そしてドイツの大手部品メーカー「コンチネンタル」が「HERE」を採用すると発表したのだ。こうした欧米メーカーの積極的な動きに対して、日本の地図情報産業は事実上、打つ手がない。(詳細は第2章) そして日本の厳しい現状にさらに追い打ちをかけるのが、次世代型衛星測位システム「マルチGNSS」である。